両忘の時‐ある日、その時‐

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スケッチ

ーある俳優の死ー

 

 「私はもはやこの世のものではありません」

呟くようなしわがれ声である

何十万という蝶につつまれた男が立っている 額にとまった蝶の呼吸と男はすでに同化している 

そして 男は蝶に呑み込まれた

計測不能の時が流れ 男はゆっくりと木立に向かって歩き始めた 

蝶は巨大な渦となり天に広がる

やがて 男は粒子の飛ぶ画像のようになっていく

消える寸前 男はため息のような咳をひとつした

 

 

 そして   この世から去って行った

 

                               2008年  4月